17255174020 白い花びらが囁く未来 - ちいさな玉手箱

白い花びらが囁く未来

花ことばの物語

放課後の教室には、私、ユキの他に誰もいなかった。窓から差し込む西日が、机の上に置かれた一輪のマーガレットの花びらをオレンジ色に染めている。私はその花をそっと手に取り、ため息をついた。今日で何度目だろうか、この恋占いは。

「好き…嫌い…好き…嫌い…」

白い花びらを一枚ずつ丁寧にちぎっていく。最後の花びらが「好き」を告げることを、いつも願っている。相手は同じクラスのハルキ。明るくて優しくて、誰にでも分け隔てなく接する彼を、いつの間にか好きになっていた。でも、彼はクラスの人気者で、いつもたくさんの女の子に囲まれている。私のような、地味で目立たない存在を意識してくれるはずもないと思っていた。

この恋占いを始めたのは、一週間前のことだ。帰り道にふと見つけた小さな花壇に、たくさんの白いマーガレットが咲いていた。その可憐な姿を見ているうちに、「恋占い」という言葉が頭に浮かんできたのだ。子供の頃、友達とよくやった遊び。まさか、こんな年になってもそれを繰り返しているなんて、自分でも少しおかしいと思う。でも、他にどうすればいいかわからなかった。自分の気持ちを伝える勇気なんて、微塵も持ち合わせていないのだから。

私の親友であるサクラは、そんな私をいつも心配している。「ユキ、いつまでそんなことしてるの? ちゃんとハルキに話しかけてみたら?」。サクラは明るく行動的な女の子で、思ったことはすぐに口に出すタイプだ。私とは正反対の性格だけど、いつも私のことを気にかけてくれる大切な友達だ。

「だって…怖いもん。もし、嫌いって言われたらどうしよう」

そう答えるのが、いつもの私の言葉だった。サクラはため息をつきながら、「言われないとわからないよ」と言うけれど、私にはどうしてもその一歩が踏み出せない。

教室の隅には、私が描いたマーガレットのスケッチブックが置いてある。先日、美術の授業で描いたものだ。白い花びらが放射状に広がり、中央の黄色い部分が可愛らしいマーガレット。その素朴で明るい姿が、今の私の心にそっと寄り添ってくれる気がして、無意識のうちにこの花を選んでいた。まるで、自分の心に希望の光を灯してくれるようだった。

ハルキとは、委員会が同じで、たまに二人きりになる時間がある。そんな時、心臓がドキドキして、何を話せばいいのかわからなくなる。結局、当たり障りのないことしか言えずに、その貴重な時間は過ぎ去ってしまう。もっと、自分の気持ちを伝えられたら。もっと、彼のことを知ることができたら。そう思うけれど、勇気が出ない。

今日も、マーガレットの花びらは「嫌い」を告げた。ため息をつきながら、残りの花びらをゴミ箱にそっと捨てる。やっぱり、だめなのかな。私の恋は、この白い花びらと同じように、はかなく消えてしまうのだろうか。

帰り道、校門を出たところで、偶然ハルキに会った。「よっ、ユキ」と、彼はいつものように明るく声をかけてくれた。突然のことに、私は言葉を失ってしまう。

「あのさ、ユキって、美術部だよね? 今度、文化祭で展示する絵を探してるんだけど、何かおすすめの絵とかある?」

まさか、ハルキの方から話しかけてくれるなんて思ってもいなかった。頭の中が真っ白になる。

「え…あ、うん。私の描いたものでよかったら…」

精一杯の声でそう答えるのがやっとだった。ハルキはぱっと顔を輝かせた。「本当? ありがとう! よかったら、今度見せてもらえるかな?」

信じられない気持ちだった。ハルキが、私の描いた絵に興味を持ってくれた。それは、私にとって小さな、けれど確かな希望の光だった。

家に帰り、スケッチブックを開いた。今日、授業で描き始めたばかりの新しい絵がある。それは、一輪の白いマーガレットの絵だった。まだ鉛筆で下書きをしただけのものだけれど、花びら一枚一枚を丁寧に描いた。

もしかしたら、私の恋も、このマーガレットのように、これからゆっくりと色づいていくのかもしれない。今日の恋占いは「嫌い」だったけれど、それはただの偶然かもしれない。大切なのは、自分の気持ちを諦めないこと。そして、少しでも前に進む勇気を持つこと。

私は、明日、ハルキにこの描きかけのマーガレットの絵を見せてみようと思う。マーガレットの白い花びらには、私の秘めた想いが込められている。

教室で一人、花びらをちぎっていたあの日々。それは、不安と期待が入り混じった、私だけの秘密の時間だった。でも、これからは違う。自分の気持ちを、少しずつ、でも確実に、彼に伝えていきたい。白いマーガレットの花びらが、今度は「好き」を告げてくれると信じて。

夕焼け空の下、私はそっと微笑んだ。明日は、きっと今日よりも少し、勇気を出せるはずだ。

マーガレットの花ことば 「恋占い」「真実の愛」「信頼」

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