あの年の夏は、すべてが鮮やかなオレンジ色だった。突き抜けるような青空と、地面を焼くような日差し。私は小学四年生で、アキとミナという二人の親友と、毎日を全力で走り回っていた。私たち三人は、いつも一緒にいる、かけがえのない存在だった。私の名前はハルカ。少し引っ込み思案で、いつも二人の後ろをついていくような子だ。アキは、活発でクラスの中心人物、ミナは、おっとりしているけれど、誰よりも優しい心を持っていた。
私たちは、夏休みに入るとすぐに、近所の公園の片隅にある秘密の場所へ向かった。そこには、背の高いヒマワリに囲まれて、燃えるようなオレンジ色のマリーゴールドが群生していた。私は、そのマリーゴールドの鮮やかな色彩が大好きだった。太陽の光を浴びて、キラキラと輝くその姿は、まるで夏の象徴のようだった。
ある日、私たちはそのマリーゴールドの花壇の前にしゃがみ込み、未来について語り合った。
「ねえ、将来、何になりたい?」
アキがそう言って、真っ先に手を挙げた。
「あたしは、絶対、サッカー選手! W杯で優勝して、世界一になるんだ!」
アキの瞳は、未来への希望で満ち溢れていた。ミナは、少し考えてから、恥ずかしそうに言った。
「私は、ケーキ屋さん。みんなを笑顔にする、おいしいケーキを作りたいな」
ミナの言葉に、私も憧れの気持ちでいっぱいになった。私は、二人を見てから、小さくつぶやいた。
「私は…まだ、わからない…」
二人は、そんな私を優しく見つめてくれた。
「大丈夫だよ、ハルカ。まだ時間はあるよ」
アキはそう言って、私の肩をぽんと叩いた。私は、その言葉に少しだけ安心したけれど、心の奥底には、置いていかれてしまうのではないかという不安が渦巻いていた。二人にははっきりとした夢がある。でも、私には何もない。このまま、みんなと一緒にいられるのだろうか。私は、マリーゴールドの花をじっと見つめながら、そんなことを考えていた。
その日の夜、私は不思議な夢を見た。一面のマリーゴールド畑の中に、一本の道が続いていた。道の先には、光り輝く扉がある。私は、その道を歩いていくけれど、どうしても扉にたどり着くことができない。すると、マリーゴールドの花が、私に話しかけてきた。
「焦らなくても大丈夫。あなたの道は、ちゃんとそこにあるよ」
その声は、アキとミナの声にそっくりだった。目が覚めた私は、夢で見たマリーゴールドの花が、まるで「予言」をしてくれたかのように感じられた。焦って無理に答えを出そうとしなくても、いつか自分だけの道を見つけられる。そんな予感がした。
夏休みも後半に入り、私たちはいつものようにマリーゴールドの花壇に集まった。その頃、アキとミナは、それぞれの夢に向かって、少しずつ行動を始めていた。アキは、毎日朝早くからサッカーの練習に励み、ミナは、お母さんと一緒にケーキ作りに挑戦していた。私は、そんな二人を応援しながらも、やはり自分のことで悩んでいた。
「ハルカ、大丈夫だよ。私たちは、ずっと一緒だから」
ミナが、私の手にそっと触れて、そう言ってくれた。私は、ミナの優しさに触れて、涙がこぼれそうになった。その時、私は、心の中で決心した。私も、二人と同じように、何かを見つけなければならない。
私は、それから毎日、マリーゴールドの花壇に足を運んだ。花びら一枚一枚をじっと見つめ、何か自分にできることはないかと、必死に考えた。
ある日のこと、花壇の隅に、一本だけ枯れかけているマリーゴールドの花を見つけた。私は、その花をそっと手に取り、自宅に持ち帰った。そして、水を与え、枯れた花びらを摘み、大切に世話をした。すると、数日後、その花は再び元気を取り戻し、以前よりも鮮やかなオレンジ色に輝き始めた。
私は、そのマリーゴールドの花を見て、あることに気がついた。私が二人を応援するように、花を大切に世話するように、誰かの役に立ちたい。誰かの心を温かくしたい。そう思ったのだ。
そして、私は、その枯れかけたマリーゴールドが再び咲いた姿を、絵日記に描いた。それが、私の「予言」だった。
「私、絵本作家になりたい」
夏休みが終わる前日、私は二人にそう告げた。アキとミナは、目を丸くして驚いたけれど、すぐに満面の笑みで私の手を握ってくれた。
「ハルカなら、絶対なれるよ! 私たちのこと、絵本に描いてね!」
アキとミナの言葉に、私は胸がいっぱいになった。あの夏、私が見つけた夢は、二人の「予言」でもあったのかもしれない。
そして、今日。私は、あの夏の思い出を絵本に描き続けている。机の上には、いつも一輪のマリーゴールドが飾られている。あの日のように、私の未来を優しく照らし続けてくれている。
あの夏のオレンジ色の輝きは、今も私の心の中で、鮮やかに咲き誇っている。あのマリーゴールドの花が教えてくれた「予言」を信じて、私はこれからも、私だけの道を歩んでいく。

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