春の穏やかな日差しが差し込む小さな町の公民館で、私はいつも隅の方で目立たないように過ごしていた。名前はアカリ。地元で開かれる手作り市の準備委員会に、半ば義務感で参加していたのだ。私は元々人見知りで、大勢の中にいるとどうしていいか分からなくなる。自分の意見を主張するのも苦手で、いつも周りの意見に流されてばかりだった。そんな自分に、内心ではうんざりしていた。
手作り市の会場装飾の担当になった私は、正直なところ途方に暮れていた。センスもなければ、積極的にアイデアを出すこともできない。他の委員たちは楽しそうに意見を出し合っているのに、私だけが蚊帳の外にいるような孤独を感じていた。どうすれば、この空間を魅力的にできるのか。頭の中は真っ白だった。
ある日、委員長のユウキが、私の様子を見て声をかけてきた。「アカリさん、何か困ってることある?顔色が冴えないけど」ユウキは、いつも周囲に気を配る、優しい男性だった。彼の言葉に、私は思わず本音を漏らした。「飾り付けのアイデアが何も浮かばなくて…私には向いてないかもしれません」
ユウキは少し考えてから、微笑んだ。「大丈夫だよ。私も一緒に考えよう。まずは、公民館の入り口に何か飾ってみない?明るい花があったら、みんなも元気が出るんじゃないかな」彼の提案に、私の心に小さな光が灯った。花ならば、もしかしたら。
私たちは連れ立って、町外れにある小さな花農園を訪れた。ビニールハウスの中は、色とりどりの花で満ち溢れていた。その中でも、ひときわ目を引いたのが、オレンジ色とピンク色のラナンキュラスだった。幾重にも重なった花びらは、まるでドレスのように華やかで、その一輪一輪が自ら光を放っているかのように輝いていた。私はその美しさに、思わず息をのんだ。
「これ…ラナンキュラスですか」
私は呟いた。その鮮やかな色彩は、私の沈んだ心に直接語りかけてくるようだった。
農園の主人が、ラナンキュラスの花言葉を教えてくれた。「この花はね、『晴れやかな魅力』と『光輝を放つ』。見る人に勇気と明るさをくれる花だよ」
その言葉が、私の心に深く響いた。晴れやかな魅力。光輝を放つ。私はこれまで、自分にはそんなものが一つもないと思っていた。しかし、目の前のラナンキュラスは、私にも秘めた輝きがあることを教えてくれているような気がした。私はその日のうちに、たくさんのラナンキュラスを買い込んだ。オレンジ色とピンク色の花々を抱え、公民館に戻る私の足取りは、いつになく軽かった。
公民館の入り口で、私はラナンキュラスの飾り付けを始めた。一輪一輪、丁寧に花瓶に挿し、バランスを見ながら配置していく。花びらの柔らかさに触れるたび、私の心も少しずつ解き放たれていくのを感じた。作業に没頭するうちに、私は自分でも驚くほど、生き生きとしていた。
「アカリさん、すごいね!すごく素敵だよ」
ユウキが感嘆の声を上げた。他の委員たちも、私の飾り付けを見て、口々に褒めてくれた。「こんなに華やかになるなんて」「アカリさんのセンス、すごいわね」
私は、褒められることに慣れていなかった。これまでは、何かをしても目立たないように、そっと行動していたのだ。しかし、ラナンキュラスの輝きに導かれるように、私は初めて、自分の表現したものが人々に認められる喜びを知った。私の心の中に、温かい光が満ちていく。まるで、私自身もラナンキュラスのように、光を放ち始めたような感覚だった。
手作り市当日、公民館の入り口はラナンキュラスの飾り付けで、ひときわ華やいでいた。訪れる人々は皆、その美しさに目を奪われ、笑顔で会場に入っていく。私はその光景を見て、胸がいっぱいになった。私の小さな行動が、こんなにも多くの人々に喜びを与えられるのだと。
その日以来、私は少しずつ変わっていった。会議では積極的に意見を言うようになり、周りの人とも臆することなく話せるようになった。私の内側に秘められていた「晴れやかな魅力」が、ラナンキュラスのように、少しずつ開花し始めたのだ。
ラナンキュラスの花は、私に自分自身の隠れた輝きを教えてくれた。それは、誰かの真似をするのではなく、私自身が持つ、私だけの魅力だ。これからも私は、ラナンキュラスのように、自ら光を放ち、周囲を明るく照らす存在でありたい。私の人生は、あの日のラナンキュラスとの出会いから、真に「光輝を放つ」ものへと変わっていったのだ。

コメント